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大阪地方裁判所堺支部 平成5年(ワ)357号 判決

原告 大阪府中小企業信用保証協会

右代表者理事 伴恭二

右訴訟代理人弁護士 大家素幸

富田貞彦

被告 Y

右訴訟代理人弁護士 中川秀三

主文

一  被告と訴外Aとの間で別紙物件目録(一)及び(二)記載の各土地について平成三年五月五日付けをもってなされた贈与契約を取り消す。

二  被告は、別紙物件目録(一)及び(二)記載の各土地について、大阪法務局富田林出張所平成三年五月二二日受付第七七七七号をもってされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

主文一、二項と同旨

第二事案の概要

本件は、原告が、訴外Aに対する求償債権を保全するため、被告に対し、訴外Aが別紙物件目録(一)及び(二)記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を被告に贈与したのは詐害行為に当たるとして、右贈与契約の取消し及び右贈与を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続を求めたところ、被告が、①訴外Aには詐害の意思がなかった、②本件各土地の時価は四〇万円くらいにすぎず、債権回収費用(競売費用は五〇万円を下らない)はそれを超えることが明らかであるから、本件各土地を取得しても詐害行為に当たらない旨主張して、原告の本訴請求を拒否している事案である。

一  争いのない事実及び証拠上明らかな事実(証拠を挙示していない部分は当事者間に争いがない。)

(原告の訴外Aに対する求償債権)

1 訴外大東食品株式会社(以下「大東食品」という。)は、昭和五五年一一月五日、株式会社大和銀行から金八〇〇万円を、利率年九・五パーセント、最終弁済期昭和六〇年一一月五日、弁済の方法昭和五六年二月五日を第一回として以後毎月五日限り元利金一七万一五〇〇円を支払い、期限に完済する、特約右分割金の返済を一回でも怠ったとき、又は手形交換所から銀行取引停止処分を受けたときは、当然期限の利益を喪失し、借受金残額を一時に支払う旨の約束で借り受けた(以下「本件貸金」という。-甲二、甲九)。

2 原告は、大東食品の右借入れに当たり、大東食品から保証委託の申込みを受けて、それを承諾し(昭和五五年一一月五日保証委託契約が成立)、右借入れの日に、右銀行に対し、大東食品の借入金債務について保証する旨約した。(甲一、甲二、甲九)

3 右の保証委託に際し、大東食品は原告に対し、代位弁済金については、代位弁済の翌日から年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨約し、訴外Aは原告に対し、大東食品が原告に対して負担する右保証委託契約に基づく債務(求償債務)について連帯保証する旨約した(甲一、甲八の1ないし5、甲九)。

4 大東食品は、昭和五九年一月二〇日までに本件貸金につき元金二八八万八一一一円及び昭和五八年三月五日までの約定利息を支払ったのみで、期限の利益を失った。そこで、原告は、昭和五九年一月二〇日、本件貸金につき金五一一万一八八九円(元金)を代位弁済した。ちなみに、原告の右求償債権につき、大東食品及び連帯保証人らは、別紙約定損害金計算表記載のとおり、合計金一〇万五六二〇円を内入弁済した(甲三、甲四、甲九)。(本件各土地の贈与とその旨の所有権移転登記)

5 訴外Aは、平成三年五月五日、同訴外人所有の本件各土地を同訴外人の子である被告に贈与し(以下「本件贈与契約」という。)、本件各土地について大阪法務局富田林出張所平成三年五月二二日受付第七七七七号をもって所有権移転登記を経由した(以下「本件登記」という。)。

二  本件の争点

本件贈与が詐害行為に当たるか否か。

1  原告の主張

(一) 訴外Aには、他にも債務があり、本件各土地は唯一の資産であった。訴外Aは、原告の債権を害することを知りながらあえて本件贈与をしたものである。

(二) 債権回収費用が時価よりも高額になるとはいえない。ちなみに、本件各土地の本件贈与当時の時価は金二五九万四六〇〇円である(一平方メートル当たりの単価金二万円で、六六・九三平方メートル)。

2  被告の主張

(一) 訴外Aは月収約五〇万円を得ていた者であり、時価四〇万円くらいの本件各土地について、一億円を超える債権の共同担保の不足をもくろんで本件贈与をするようなことはない。

(二) 債権回収費用が債権回収額よりも高額になる場合には詐害行為とはいえない。ちなみに、本件贈与当時の本件各土地の時価は四〇万円くらいにすぎず、競売申立費用は少なくとも五〇万円を下らない。債権者が債権回収を図るに際し、回収費用が回収額を上回ることが予想されるときには、債権回収を行わないのが通常である。債権回収行為の収支が赤になるのは回収目的に反するし、これを行う担当者にとっては損失を増大させる点で背任行為といえるからである。したがって、原告の本件各土地に対する債権回収行為は背任行為ということができ、その反射的効果として、被告の本件各土地の取得行為は詐害行為に当たらない。

三  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、それをここに引用する。

第三争点に対する判断

一  前記第二の一1ないし5の各事実及び証拠(甲一ないし甲五、甲六、甲七の各1、2、甲八の1ないし5、甲九、甲一〇)並びに弁論の全趣旨によれば、

1  本件贈与契約がなされた当時、訴外Aは、株式会社ジェイフーズの代表取締役をしていたが、原告に対し、前記認定の求償債務(元金残と損害金の合計約一〇二一万円)のほか、少なくとも三口の求償債務(合計約六三四五万円)を負担し、その総額は約七三六六万円となっていたこと

2  本件贈与契約当時、訴外Aには、本件各土地の他にはほとんど見るべき資産がなく、支払不能の状態にあったこと

3  本件贈与契約当時、原告は前記求償債務の履行を請求し、主たる債務者及び訴外Aらにおいて、本件求償債務について時々一万円を内入弁済していたこと

4  被告は、訴外Aの子であるが、本件贈与当時大学生で父から急いで本件各土地の贈与を受けなければならない格別の事情や必要性はなかったこと(ちなみに、被告本人は、持家の準備のため父より非課税の範囲で贈与してもらったものである旨記載した書面を提出していた。)

が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  右のような事実関係の下では、訴外Aは、本件求償債務についてその履行を追及されていたことを認識し、右認定の求償債務を支払うに足りる資力もなく、支払不能の状態にあるにもかかわらず、格別贈与の必要性もないのに、被告に対して本件各土地を贈与したものであって、被告及び訴外Aは本件贈与により債権者(原告ら)を害することを知っていたものと推認するのが相当である。よって、本件贈与契約は詐害行為に当たるものといわなければならない。

被告は、前記のとおり、「訴外Aは月収約五〇万円を得ていた者であり、時価四〇万円くらいの本件各土地について、一億円を超える債権の共同担保の不足をもくろんで本件贈与をするようなことはない。」旨主張するが、前記認定事実(無資力で支払不能の状態にあったこと)に照らすと、右のような弁解は採用するに由ないものというほかなく、また、前記のとおり、「債権回収費用が債権回収額よりも高額になる場合には詐害行為とはいえない。本件贈与当時の本件各土地の時価は四〇万円くらいにすぎず、競売申立費用は少なくとも五〇万円を下らないので、原告の本件各土地に対する債権回収行為は背任行為ということができ、その反射的効果として、被告の本件各土地の取得行為は詐害行為に当たらない。」旨主張するが、自己に都合のよい独自の見解というほかなく、採用の限りではない(ちなみに、仮に、債権回収費用が債権回収額よりも高額になったとしても、それをもって背任行為になると即断することはできないし、詐害行為の対象物の財産的価値がなくなるというものでもなく、したがって、被告主張のように、詐害行為にならないとは到底認められない。)。よって、被告の右主張はいずれも理由がない。

三  結論

以上の次第で、原告の被告に対する詐害行為取消権に基づく本件贈与契約の取消し及び本件登記の登記抹消請求はいずれも理由がある。

(裁判官 大谷種臣)

〈以下省略〉

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